2024年11月30日土曜日

3回鈴木六林男賞受賞作品 古田 秀

第3回 鈴木六林男賞(大賞)受賞作品
ビバリウム
古田 秀

蜜いろの干潟香水瓶の中
母の日をまばらな画素として笑ふ
塔なして栽培棚や苺垂れ
風鈴や富士は二色に描かれたる
再生水常温無臭髪洗ふ
頭蓋を鈴と思へる茅の輪かな
うつすらと雲に茜や夏神楽
移住地を模し箱庭の赤き砂
兜虫しづかに果肉抱いてをり
夏痩や後ずさりして大きな絵
死せる翅掃きて晩夏のビバリウム
この頃は旅に飽きたりゼリー吸ふ
髪に花白くともれる星祭
潮錆の整備工場カンナ咲く
マネキンに腹筋うすく稲つるび
桃啜るからだの熱を吸はせつつ
ザッピング部屋ぢうが台風の渦
ミニシアター秋冷の影滑りくる
澄む秋の貝のボタンに呼吸孔
声のする次の暗がり美術展


【選考経過】 岡田耕治
 第3回鈴木六林男賞の選考経過を説明する。2024年9月1日までに到着した作品は、85編と、前回の倍近い応募をいただいた。これを私が開封した(メールを開いた)順に番号をつけ、名を伏せて選考委員の岡田由季さん、久保純夫さん、曾根毅さん、津髙里永子さん、堀田季何さんに送付した。選考にあたり、各委員の持ち点を10点とし、最高5点以内で応募作品に点数を付けていただいた。
 各選考委員の採点を合計したところ、最高点に古田秀さんの「ビバリウム」が、選考委員全員から15点という高得点を得たので、第3回鈴木六林男賞の大賞とすることを選考委員に提案したところ、全員の了承を得た。
 また、秀逸賞については6点の「しづく」清水縞牛さん、「絶品」亘航希さん、「豆椅子」平嶋さやかさんの三人とすることについても、了承を得た。
 六林男賞大賞の、「ビバリウム」古田秀さんについては、「桃啜るからだの熱を吸はせつつ」をはじめ、現実を冷静に見取りながら、そこから浮遊していく感覚に惹かれた。このような書き手に、スポットライトを当てることができたことを喜びたい。

以上

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