2023年11月8日水曜日

2回受賞作品 渡邉美保 山本半片

第2回鈴木六林男賞受賞作品
水に呼ばれて 渡邉美保

生れたての蠅取蜘蛛の飛ぶ軽さ
団子虫踏めば蟻来て運び行く
知らぬ間に金属片になる蜥蜴
包帯を浸す晩夏の洗面器
水底の水に呼ばるる八月よ
幽冥へカサブランカを抱いてゆく
海に落ち花火つめたく広がれり
波音に急かされてゐる盆用意
白芙蓉子は一泊で帰りけり
桃投げて手応へのなき美少年
深海の目のなき魚に秋のこゑ
檸檬切る魚は切身で売られけり
吊橋の半ばに鶫見失ふ
川幅の狭きへ消ゆる白鶺鴒
闇の中鹿が鉄路を舐めに来る
剝き出しの鉄骨匂ふ十三夜
土壁の崩るるままに葛の花
竹の春土塊ざくと掘り起こす
切株に年輪母に笑ひ皺
綿虫になるのを待ってゐる媼

第2回鈴木六林男賞受賞作品
噴射 山本半片

春愁ひフランケンシュタインの下睫毛
光るもの抱いて海女やひたのぼる
桐咲くや人形の眼の売れぬ夜
朱袴を風に嬲られ祭稚児
修道女(シスター)の愛に肥りて蕃茄かな
運命は鱏の速度で迫り来る
M R I受くや茅の輪を潜るごと
エレベータ眼下に仏遠ざかる
また一人赦されたらし蓮散れり
俳号で呼び合ひ収容所(ラーゲリ)小望月
小春日のトーテムポール歯に木目 
銀の背のゴリラと見上ぐ寒昴
ウチイリと叫んでティムの半被かな
病院の聖樹星にはテープ痕
人事みなおでんで喩え高架下
白犀の尿の噴射や銀河系
色はみな重力みやこどりふはり
寒気痼る陶の兵士の耳穴に
水仙花鈍感なふり馬鹿のふり
尾鰭上げ二月はチョコレートの鯨

以上

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